AI Engineer

Kumada Seiya

仕事であろうとなかろうと勉強し続ける、その結果”中身”を知ったエンジニアになれる

PROFILE

熊田聖也 / AIエンジニア
大阪大学(博士(工学))応用物理学科首席卒業(楠本賞)

アカデミックから民間企業と幅広い経験

-これまでのキャリアについて教えていただけますか

私はアカデミックでの研究と民間企業での経験があるので、学生時代からお伝えしますね。
私の博士論文のタイトルは「GaAs-AlGaAsヘテロ接合界面内の低次元電子系に於ける素励起に関する理論的研究」です。ヘテロ接合界面とは、2種類の半導体の接合面のことです(ヘテロとは異種を意味する)。2種類の半導体GaAsとAlGaAsの接合面(界面)内には、運動が2次元平面内に制限された電子が存在します。そのような電子の素励起(励起の基本単位となる粒子のようなもの)の研究を行っていました。具体的には、磁場下における電子の集団励起や、分数量子ホール効果を説明するとされる準粒子(コンポジット・フェルミオン)の振る舞いを理論的に研究していました。この研究をまとめる過程で、3本の第一著者論文を執筆しました。最後の論文は、素粒子理論で使われていたチャーン・サイモンゲージ場を物性論に応用したものです。私が学生の頃、物性理論に素粒子理論の方法論が流入し始めており、その流れに乗ったわけです。

その後アカデミックに残り、助手を務めていたのですが、色々思うことがあり民間企業へ移ることにしました。今まで複数社を経験しましたが、主に画像処理や機械学習、深層学習の実務を経験しています。

CCTでもAIをメインで扱う部署に所属し、今までの経験を活かした業務を行う傍ら、後進の育成のために勉強会を実施したり、国内のシンポジウムでポスター発表をしています。

アカデミックの道の難しさ

-なぜアカデミックの道から企業への環境に移ったのでしょうか

私の場合は、自分の能力に限界を感じたので民間企業に移りました。博士課程を取得した時点で3本の論文を書き、その後助手になったあと、同じ研究の流れでもう1本書いたのですが、そこで力尽きてしまったんですよね。約3年間の助手の期間の中で1本の執筆では全然ダメで、もっと多くの論文を書かなければ生き残れない環境の中で、私にはこれ以上執筆することが難しいなと感じていました。

ただ、その後民間企業に移って感じたこととしては、世界が広がったということです。大学時代は紙と鉛筆の毎日で、PCを使うのはFortranで簡単な数値計算をするときだけでしたが、企業では紙と鉛筆ではなくコンピューターを使う日々となりました。最初の民間企業でいきなりオブジェクト指向やC++を勉強したときは面食らいましたが、今思うと当時の勉強が現在の礎になっていますね。

顧客が本当に求めるもの

-今まで関わったプロジェクトについて教えてください

CCTでは多くの案件に関わっているのですが、簡単に2つほどご紹介します。

1つ目が自動車メーカー様向けの案件で、お客様の要望としては「エンジンルーム内のとある筐体を自動検出し、筐体内の各種部品が正しく設置されているか否かを自動判定したい。画像はスマートグラスを通して取得し、リアルタイムに検査員に結果を表示するシステムを作りたい。」というものでした。
その中で弊社側の解決策としては、物体検出(深層学習による手法)により筐体を検出し、検出後の筐体内の合否判定を、画像認識(深層学習による手法)で行いました。結果として、机上検証では満足のいく精度を実現出来たので、スマートグラスと組み合わせた現場へのシステム導入を今後予定しております。

2つ目が製造業様向けの案件で、お客様の要望としては「製品の耐久テスト時の動画から異常な動作を自動検知したい。」というものでした。

弊社としては、K-近傍法というとてもシンプルな手法を提案し、現在、お客様側で実運用に使われています。さらに、SSII(画像センシングシンポジウム)2019にて、その内容のポスター発表を行いました。

弊社はお客様とかなり近い位置で仕事をすることが多いので、お客様の要求を聞く中で、本当に実現したいことは何かを考え、予算や期間と相談しながら最適なソリューションを提案・実行し続けてきたつもりです。

お客様の話を聞くと、実はお客様内のリソースだけで課題を解決出来てしまうケースもありますし、AIを使わなくても十分に事足りることもあります。お客様のことを本当に考えるのであれば、なるべく簡単な方法で、コストも掛からず、期間も早く実現出来たほうが良いですから。

AIは技術の進歩が非常に早いものの、現実的には出来ることと出来ないことがあるので、お客様と何度も対話する中で試行錯誤し続け、考えることを決して止めない姿勢が重要だと感じています。

物事の本質を理解すること

-今後AIエンジニアを目指す方にアドバイスをお願いします

今はAI関係のライブラリが充実しているので、“中身”の詳細を知らなくても結果は出せます。しかし、その手法を選んだ理由や、あるパラメータを指定した理由まで説明できるようなるにはロジックの中身を理解する必要があるし、もしかしたら論文を読む必要があるかもしれません。

今は前者の人(中身を知らない)と後者の人(中身を知る)に分かれているように思いますし、どちらを選ぶかはその人次第でしょう。また、どちらが良い・悪いというわけではないですが、はっきり言えることは仕事以外で勉強しない人はおそらく後者にはなれないと思います。この辺りの感覚は私がアカデミックの道を進んでいた影響だと思いますね。研究者って研究を仕事として捉えないんです。自分が知りたいと思ったことは仕事であろうとなかろうと納得できるまで調べ続ける性分なんです。
私は生涯勉強し続けるでしょうし、一緒に働く仲間もそうであってほしい。是非そんな思いに共感頂ける方は一緒に働きたいと思っております。

Kumada Seiyaのブログ記事

PAGE TOP